ねこちゃんの思い出


地元の古い友達とメールしていて、ねこちゃんのことを思い出したので書いてみます。


実家では、私が高校3年生のときに拾ってきた猫を初めて家に受け入れ、今は3匹めの猫が1匹だけ暮らしています。
初めに拾ってきた猫というのが[ねこちゃん]です。


ねこちゃんはキジトラ柄のめす猫でした。
その後の2匹はどちらもオスで、体も大きめ(どちらも6〜7kg級)なせいか、初代ねこちゃんの毛のやわらかさ、体の小ささ、声のやさしさが際立って印象に残っています。


私が実家に住んでいたのは高校卒業まで、それまでに一緒に暮らしたのは、初代の猫「ねこちゃん」だけ。
私にとって、ねこちゃんは特別なのです。


ねこちゃんが思い出深い理由はほかにもあって、苦労して拾ってきたこともそのひとつ。


ある夏の日、実家の裏山で、子猫が一晩中鳴いていました。
どうやらガケの途中で動けなくなっているようでした。
大きな台風がせまっていたこともあり、せめて動けるようにしてやろうと思って見に行きました。
ねこちゃんは、木や草の生い茂ったガケの途中に座って、弱弱しく鳴いていました。
私は、3〜4mガケをのぼって、猫ちゃんの近くまで行くことができました。
しかし、木や草やツルが邪魔をして、あと少しのところで手が届きません。
しかもねこちゃんは、私を警戒して、逃げようとしました。
一晩中そこから動けなかったくらいですから、あまり逃げる余地はなかったですけど(^-^;)
私はとっさの判断で、ねこちゃんよりも向こうまで伸びている木の枝だかツルだかを引っ張って、ガサガサと音を立てました。
それに驚いたねこちゃんは、今度は私のほうに逃げてきました・・・そこをキャッチして捕まえました。
そのときのねこちゃんは、片手ですっぽり包める大きさでした。
こうして私は初めてねこちゃんをこの手に抱いたのですが、問題はここからでした。


ねこちゃんを持ったままだと片手がふさがって、ガケをおりることができません。
滑り降りるには障害物が多く、飛び降りるには高すぎます。
私は考えました・・・


 ・ねこをガケの下に滑らせて・・・ →無理、ケガしそうです
 ・ねこを抱いて何とか降りてみるか・・・ →危険すぎ、ねこちゃんにも怪我をさせてしまうかも
 ・ねこの首根っこを口にくわえて・・・ →これだ!!


・・・と思ったものの、お世辞にもきれいではなかったねこちゃんを、直接口でくわえる勇気はありませんでした。
そこで私は、考えたすえに・・・
靴下を脱いで、ねこちゃんを入れ、口にくわえてガケをおりたのでした。


ねこちゃんは、猫のくせにたれ目で、とっても頼りない顔をしていました。
灰色で不安そうな目、忘れることができません。
親とはぐれたのか、捨てられたのか、恐ろしい目に遭ったのでしょう。
出あったばかりの頃の写真を今でも持っています。


ねこちゃんを連れて帰ると、
「台風だから、今晩だけ車庫に置いてやろう」ということで、両親の許しが出ました。
ミルクをやって、みかんを入れるコンテナ(みかん箱くらいの大きさ)に入れました。
ねこちゃんは、裏山にいたときと変わらず、にゃー、にゃー、と鳴き続けでした。
ただ、抱っこしてやると鳴きやむのです。
夜になって、私が2階の自室に戻ってからも、鳴き続けていました。
気になって仕方がなく、夜中に何度も会いに行きました。
抱いていると、かわいくてかわいくて。
いくら撫でても撫でたりないし、いくら見つめても足りない。
翌日にはお別れのはずでした。


翌日の夕方。
買い物に出ていた父母が帰宅し、いよいよ猫を捨てにいかなければならないと覚悟していたのですが・・・
信じられないことに・・・
母は笑顔で、キャットフードを買って来たといって私に差し出したのです。
驚きと喜びで、言葉もありませんでした。
昨夜の私の様子を見て、飼ってみることに決めたのだということでした。
私や兄が小さい頃から、動物は飼わない方針を貫いてきた我が家で・・・信じられない出来事でした。


我が家に受け入れられてから、ねこちゃんはぐんぐん健康的になって、顔つきも変わりました。
でも、なんだか控えめな性格は、変わることがありませんでした。


ねこちゃんが家に来てから、家の中がいっぺんに明るくなりました。
共通の話題ができたので会話もはずむし、自然とみんな、猫のいる部屋に集まります。
それまで暗かったわけではないのですが・・・
当時の我が家は、兄が進学して家を出ており、私と父母の三人。
私も高校3年で、それなりにむずかしい時期でした。
ときどき帰省する兄も、「動物が居ると、家の中が明るくなっていいなあ」と言っていました。
そのぶん、家はボロボロになるけどね、と母。


母は今でもねこちゃんのことをよく話しますし、帰って来る夢を見るのだそうです。
もちろん私もです。
実家のリビングには、ねこちゃんを抱いた母の写真が、6ツ切サイズで飾られています。
ねこちゃんは今も私達のそばにいるみたいです。


できることならもう一度会いたい。
ねこちゃんもそう思っているはずです。


家に来て約一年後、ねこちゃんは、自分が産んだ子猫(オス)と折り合いが悪くなり、家に帰ってこない日がだんだん増えました。
私が進学して実家を離れてたあとのことです。
しかし、ほとんど帰ってこなくなってからも、私が実家に滞在しているときには必ず顔を出して、私の部屋に泊まっていきました。
ねこちゃんは私のことを良くおぼえていてくれたのに、私はもう実家にいない。
そのことがつらかったです。
新しい猫と折り合いが悪くても、私が実家に住んでいれば、ねこちゃんが出て行くことはなかったかもしれません。
今さらどうしようもないことですが・・・


台風の時期に実家にいると、ねこちゃんと出会った頃のことを思い出します。